2021年10月27日に大手自動車会社元代表取締役の公判が結審しました。
元代表取締役は最終意見陳述においても、犯罪の共謀への関与を否定。
司法はどのような判断を下すのでしょうか。来年3月3日の判決が待たれます。
昨秋からの審理で明らかになってきた元取締役と元監査役の動きが、会社法に反していると指摘されています。
一連の疑惑は、2018年6月に元監査役が東京地検特捜部に伝え、限られた社内関係者のみの極秘案件として取り扱われることになりました。
しかし会社法に則れば、監査役は取締役の不正を取締役会に報告するべきであり、それを果たさなかったということです。
極秘案件とした元取締役と元監査役は、違背の理由について、元会長の強い権力の下での調査や判断が難しく、地検を頼らざるをえなかったとしています。
同社ガバナンス委員会の報告書には、破たん寸前から会社を立て直した元会長が、ある種神格化されていき、取締役や幹部の人事権を一手に掌握しモノ申す者は排除したという、当時の状況が記されています。
また元会長は、金融商品取引法違反の他にも3つの会社法違反(特別背任)で起訴されています。
金融取引の私的損失を会社に付け替えたり、海外の販売代理店への送金を本人保有の会社に還流させたり、お金に絡むものです。
2019年12月に元会長が楽器運搬用の箱に身を潜めて国外脱出を果たしたことは、未だ記憶に残っています。
良くも悪くも元会長の豪胆さを見せつけられたような出来事でした。
さて、一連の報道に内部監査は登場していません。
同社では、取締役会から独立した内部監査を行う体制が、むしろ模範的に整えられていました。
しかし果たしてこのような状況下で、内部監査が事実にたどり着くことはできたでしょうか。
これは非常に難しかったとのではないかと推察します。
では権力を集中させている強い経営者が内部統制を蔑ろにする状況で、内部監査が経営層の芳しくない指示に出くわした場合はどう対応すべきでしょうか。
下記3点ほどの原則的なことにしか思い至りません。
・原則として、監査役に相談する
・社長に1対1で懸念を伝える
・他の役員に根回しした上で取締役会に出席し、監査結果を報告する
2019年半ば、経産省はグループ・ガバナンス・システムに関する実務指針を公表しました。
コーポレートガバナンスコードを補佐する指針で法的強制力はありませんが、企業の内部監査部門が経営陣の関与が疑われる不正を確認した際、経営陣ではなく監査役への報告を優先させる規定を設けるよう求めています。
これは監査役の機能強化の裏返しなのですが、内部監査人の専門職としての覚悟を問うものでもあると考えます。
「自分の馘を賭けた正義の行動」を内部監査人、特に内部監査部門長が行えるかということです。
誰に報告し、どのように論戦布陣するか、緻密な計画と、実行できる熱量、豪胆さも必要でしょう。
強い経営者がいる会社の内部監査人は、一度は自問自答しておくべきかもしれません。