小規模内部監査アドバイザリ

品質不正と会社の体質

本日注目する大手電機機器グループは、国内外に200以上の子会社、14万人以上の従業員を抱える大企業です。
3つの赤い菱形は、国を代表する老舗企業のひとつとして誇りと信頼の象徴でした。

そのグループ企業では、検査・品質不正が相次いで露見しています。
数年前から断続的に発覚しており、今年に入ってからは、機器の部品に認証登録と異なる樹脂材料を使用する品質不正や、鉄道のブレーキに使用される機器の不正検査等が発覚しました。

長年に亘る不正で、各地の工場で国際認証を一時停止、または取り消されています。

日本のメーカーの老舗として、彼らが経営の根幹として謳っていた「品質第一」に嘘があったという罪は重い、そう思います。

検査不正の発覚は他社でもあります。
しかし同グループ企業の検査不正が抜きん出て多いのは何故なのでしょうか。

当該企業の前社長は、「顧客との関係より自分たちの論理を優先する業務の進め方だった」と弁明されましたが、不正が明らかになるたびに、隠蔽体質が変わっていないと露見するわけです。

実際、検査に使う機器を故障したまま7年放置していたという内部告発もありました。

今回は一連の品質不正問題を受け、2021年10月、内部統制システムやガバナンス体制の改善点を外部の視点から検証する、ガバナンスレビュー委員会を設置しました。

品質不正問題に関する執行役・取締役の経営上の責任を明らかにし、必要な措置を取締役会で検討、来年3月をめどに、内部統制システムおよびガバナンス体制全般の検証結果と改善策の提言を、ガバナンスレビュー委員会が会社に提示すると発表しています。

2021年12月23日、その報告書が公表されました。
新旧役員12名の減俸などの処分とともに、委員会の実施するアンケートに対する上司による妨害なども明らかにされました。

委員会報告として、経営陣は2018年の検査不正発覚後、有事意識をもって経営に当っており、役員の善管注意義務違反はないとしながらも、調査するたびに不正が発覚する手続き軽視の企業風土の残存を指摘しています。

所謂、現場と本社の意識の落差や、工場至上主義といったものが伺えます。大企業であっても、手足までガバナンスを効かせるのが如何に難しいかということでしょう。
内部統制や企業統治の改善策の提言は2022年3月までに公表されるとのこと、気になります。

さて、製造業の会社で同様の状況の場合、内部監査には何ができるでしょうか。

隠蔽体質であることは大変な高リスクですから、その辺りの統制環境の保持や醸成に力を入れたいところです。下記のような監査項目はどうでしょうか。

・内部通報制度の実効性
・製造現場から取締役会への報告事項の適切性と迅速性
・検査担当職員の人事異動の適切性           

また、検査作業回りの業務を丁寧に見ていくこともできるでしょう。

・検査装置の運用管理・資産管理の状況
・検査装置の検査数と対象機器の生産数、および検査装置の耐用年数の分析
・ISO監査の手順や結果に対する内部監査   

製造業でなくとも、似たような事例が埋もれているかもしれません。
顧客に約束した品質ではないことを隠蔽する社風、です。

統制環境は内部統制の土台と言われていますが、会社の体質とも言うべき統制環境を是正していくのは大変なことです。

当該の企業でも、内部監査で会社の体質改善を助成できるよう願っています。

なお、改正「公益通報者保護法」は2022年6月施行で、従業員301人以上の会社は「窓口設定・調査・是正措置」などが義務化します。内部通報制度の見直しも必要です。